常夜の灯り

提案も強制も批判もしない、ただの記録です。

親子との出会いと別れ

小雨降るオムスクで煙草を吸う。多くの人間が乗降しているのを見る。

 

 

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ここオムスクはシベリア鉄道の主要な駅の中で最もカザフスタンに近づく駅の一つかもしれない。確かアスタナに向かう電車も出ていたような気がする。

 

カザフスタン、さらにその先の中央アジアに思いを馳せる。いつか行ってみたいものだ。

 

 

夜のためのカップ麺とパン、停車駅を逃した時のためのクッキーを買って再び乗り込んだ。

 

 

オムスクでは同じコンパートメントの男性が降り、その代わりに親子と思しき中年男性と若い男性が乗ってきた。ベッドの上の段から軽く挨拶を交わす。彼らが僕らのそれぞれ下のベッドに入る。

 

 

1時間ほど本を読んだ頃、彼らが急に上段の僕らに話しかけてきた。

英語が分からないようだったので、翻訳アプリで日本人だからロシア語が話せないということを伝える。それから話が弾み、下のテーブルで彼らが広げていた夕食を食べることになった。

 

 

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瑞々しくいトマトとキュウリ、味が染みたチキン、ゆで卵、ロシアならではの黒パン、マッシュポテト、カボチャのソース…どれも本当に美味しい。

 

僕らはレトルトやファストフードばかり食べていた訳ではなかったが、人の優しさに触れたこともあり、この温かい食事を美味い美味いと言って食べた。本当に美味しかった。

 

家に農園を持っており、これらの料理は全部手作りらしい。

 

 

食べながら、翻訳を使って喋った。

彼らは親子で、エカテリンブルグで軍隊にいる次男に会いに行くのだと言う。父親は若々しく見えたが、孫もいるらしい。

 

 

2人とも、ウイスキーコークを作って飲んでいる。シベリア鉄道では酒を飲むことは禁じられているので、彼らはこっそり飲んでいるんだというジェスチャーをしていた。陽気で優しい親子だった。

 

 

美味しい料理は全部、彼らが作ったらしい。野菜も育てていると言っていたが、それが家庭菜園のレベルなのか農場のレベルなのかは、翻訳アプリでははっきりしなかった。

 

 

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僕らと彼らの話をたくさんした。

僕らの素性、大学卒業後のこと、家族のこと、勉強のこと、旅のこと…

彼らの家族のこと、仕事のこと…

 

日本の写真をたくさん見せた。その一つ一つに彼らは純粋に驚嘆し、面白がった。

 

満腹になるまで食べさせてくれた上に、まだ食べろと何度も言ってきた。僕らは有難くそれを固辞すると、彼らはグラスと紅茶のティーバッグをくれた。サモワールで作れということだ。

彼らはウイスキーコークを、僕らは紅茶を飲んだ。

 

 

彼らはウォッカは飲まないらしい。理由は美味しくないから。

ロシア人は例外なくウォッカが好きだと思っていたので驚いた。

 

また、彼らはアメリカが嫌いな典型的なロシア人だった。僕らが使っている携帯電話のメーカーがアメリカのものなのを見ると、どうして日本人なのに日本のメーカーのものを使わないのか?と聞いてきた。そんな彼らの使っている携帯電話はoppoのものだったので笑ってしまった。

 

彼らは屈強な人間だった。父は駅員をやっていた。息子の仕事は忘れた。

彼らはレスリングをやり、大地で野菜を育て、魚釣りをして暮らしている。凍った湖で寒中水泳をしている動画も見せてもらった。

僕はスポーツマンではないのに、夏に一度だけやったボルダリングの写真を見せ、たまにやっているとほらを吹いた。貧弱な奴だと思われたくなかったからだ。

 

僕が魚釣りをしたことがないと言うと彼らはあり得ないといった表情を浮かべ、また来たら教えてやると言ってくれた。親友が彼らとWhatsAppで連絡先を交換した。

 

 

彼らは僕らにロシア語のあだ名をくれた。

僕らのフルネームを聞いてしばらく考えると、親友には「ギェナ」僕には「アルカーシャ」と言った。僕らの本名から取った部分が微かに分かるくらいのよく分からないあだ名だったが、僕らは気に入った。

 

 

僕らはロシア語を殆どと言って良いほど分からなかったので翻訳アプリを使って会話をしていたのだが、時折僕がロシア語をニュアンスで解して会話を進めることがあり、親友が驚いていた。僕が彼らが言ったロシア語を今はこういう趣旨のことを言っているのだと思う、と解説することもあった。

自分では気づかなかったが、そういえば僕が全く見知らぬ土地に適応するのが速いのもこれがあったからなのかもしれない。

 

 

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途中の停車駅で煙草を吸いに外に出る。

まだ夜の早い時間だからなのかもしれないが、急に停車的で降りている人に活気が出てきた気がする。親子のように陽気な人が多く乗ってきたのかもしれない。

 

親子と喋りながら煙草を吸う。近くにいた一人の青年も輪に加わる。

青年はカザフスタンから来て、スロバキアに行くらしい。僕の旅路のことも話した。

カザフスタンの煙草をくれたので一緒に吸った。とは言っても煙草なぞ味にさほど違いがある訳ではないし、これまでモンゴルやロシアの煙草を吸っていたので違いは分からなかった。

 

 

電車に戻ると、彼らは僕らに何杯目か分からない紅茶をくれた。ウイスキーボンボンのチョコレートもくれた。

紅茶を飲みながら、日本のお金とロシアのお金を交換する流れになった。

僕らが持っていた小銭、とはいっても百円玉が数枚ある程度であとは十円玉と一円玉だったのだが、を出すと彼らはロシアの紙幣をくれようとしたので固辞した。その代わり、僕らは千円札を一枚ずつ出し、親友はロシアワールドカップ記念硬貨を、僕はソ連時代のルーブル紙幣を交換してもらった。

 

彼らと話していると、歳は全然違うのだが僕の祖父を思い出した。おおらかで屈強だったからなのかもしれない。

 

 

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日付が変わったころ、再び停車駅があったので親子の息子の方と煙草を吸いに出た。

 

車両に戻るとお互いの恋人の話になっていた。

子供はいるのかと聞かれたので僕らはまだ22歳だぞと言うと、俺が22歳の時にはもう子供がいたぞと返されたため閉口した。

 

そういった話が錯綜した結果、最終的に下世話な話になった。

親父は自分の娘の写真を見せながら胸が大きいだろと言うわ、息子は僕が見せる日本の写真に写っている女子に興奮しだすわで呆れたが、同時にこういった話のボーダーレスさを感じた。

 

だが、狭いシベリア鉄道のコンパートメントの中で興奮されてもこちらとしては堪ったものではないので寝る支度をすることにした。

 

 

彼らが電気を消す時、僕らはイヤフォンで音楽を聴いていた。

彼らが例のようにこのイヤフォンは日本製かと尋ねてきたので僕らはそうだと答えると、とても嬉しそうに頷いたのが面白かった。

 

 

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